日本人の平均寿命は、女性で86.83歳、男性で80.50歳
その体を構成する細胞は約60兆個あり、様々な機能を遂行するために特化した細胞(分化した細胞:分化細胞)、幹細胞、生殖細胞の3種類に分類されます。
【分化細胞の例】
(1)消化管の細胞は、消化酵素というタンパク質を作り、消化管内へ放出して食物を消化します。その細胞寿命は30日以内。
(2)赤血球は、ヘモグロビンというタンパク質をもち、酸素を全身に運びます。その寿命は120日。
(3)肝細胞の寿命は500日。
(4)神経細胞は、細胞膜にある受容体と言うタンパク質で、光・熱・物理的な力を電気信号に変換して脳に伝えます。その細胞寿命は個体の寿命にほぼ一致し、長生きですが、障害されると再生が困難です。細胞内に異常タンパク質が蓄積して神経細胞死を生じることがあります(アルツハイマー病など)。
【幹細胞】
各種臓器に微量に存在し、細胞分裂により分化細胞を作り出して、死んだ分の細胞を補い、臓器の構造と機能を維持しています(恒常性の維持と言います)。1個の幹細胞は、全く同じ2個の細胞に分裂するのではなく、1個は分化細胞になる娘細胞になり、1個は元の幹細胞の機能を持つ母細胞となり(非対称分裂と言います)、新しい細胞の供給元を維持し続けます。
◎古い細胞は絶えず壊され、新しい細胞が入れ替わります。
細胞増殖と細胞機能の遂行という生命現象において、タンパク質が、その主役を担っていると言えそうです。
ヒトの体内には10万種類のタンパク質があり、大部分は細胞活動に使われ、一部は細胞を構成する材料(構造タンパク質)となります。個々のタンパク質を作る設計図を遺伝情報(遺伝子)と言い、ヒトの場合、22287種あります。(タンパク質と遺伝子の種類数にカイリがありますが、スプライシングという機能によるもので、少ない遺伝子で多種類のタンパク質を作れます。)遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)という長いヒモ(担体)の中に組み込まれています(地図での鉄道の線をDNAとすると、黒い部分が遺伝子です)。DNAという約2メートルのヒモが2本、らせん状によられて縄になり、この縄がヒストンというタンパク質に巻き付いて、さらに巻かれ、折りたたまれて太くなったものが染色体です。例えば、骨折をすると、壊れた骨や、出血部の血小板からサイトカインというタンパク質が放出され、骨を作る骨芽細胞に信号を送り、細胞内のDNAの特定の部位にある遺伝子に働きかけて1型コラーゲンというタンパク質を作り、これを細胞外に分泌して骨を作っていきます。
そのタンパク質を作り続けるためにはエネルギーが必要であり、それは、食物として摂取された炭水化物と、呼吸で取り込んだ酸素との化学反応で得られます。この反応時に酸素の一部が活性酸素(スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、等の総称)になり、これがDNAを壊します。(細胞分裂や紫外線によってもDNAが破壊されることもあります。)DNAの損傷頻度は、一日に1万~10万回と言われます。体内には活性酸素を除去する酵素があったり、DNAを修復するメカニズムがありますが、修復が追いつかないこともあります。また、加齢により、DNA損傷は蓄積していきます。DNAというタンパク質を作る設計図が壊れれば、タンパク質が作られない、異常なタンパク質が作られて細胞内に蓄積する、等の結果、細胞が機能しなくなる、分裂・増殖しなくなる、細胞が死んでしまい(アポトーシスと言います)臓器が委縮する等の事が生じます。時には、似て非なる細胞(癌化する細胞)を作ってしまうこともあります。この場合、DNA損傷応答(DNA damage response)という機能が活性化され、癌化する可能性のあるDNAを持った細胞の分裂を抑制したり、その細胞が死んでしまう(アポトーシス)ようにして癌化を抑制しています。
「成長期以後に起こる進行性の生体機能の衰え」が老化の定義です。老化には細胞外タンパク質の糖化や細胞内異常タンパクの蓄積、等々も関与しますが、主役は上にお話ししたDNA損傷の蓄積による細胞数の減少とタンパク質産生減少であり、呼吸をしている(酸素を吸っている)以上は避けられないように思われます。でも、誰にでも生じる基本的老化(生理的老化)に拍車をかけて老化を進める因子が見つかれば、それに対応することにより、老化の速度を落とすことは可能なはずです。(例えば、膝関節の軟骨が変性・減少した状態に対して、関節内へのヒアルウロン酸を注入により、関節の滑りをよくして軟骨の更なる擦り減りを抑えようとする試み、等)
(テロメア短縮と老化については、神経細胞や筋細胞の老化をこれでは説明できないこと、動物の寿命とテロメアの長さが必ずしも相関しないこと、等、複雑なため、ヘイフリック限界 Hayflick limit とともに割愛。)
生まれてからの時間が経つと体の内・外がいたんでくるのは何故、19のままでいられないのは何故、に少しでも答えるために、老化について、枝葉を思いっきり取り払ってお話ししました。
腱、靭帯、骨、軟骨といった器官では加齢による構造の劣化とそこにかかる負荷の大きさが、筋肉ではその細胞数の減少が、神経では周囲組織の加齢変化による神経への圧迫が、成人の整形外科疾患の一部を形成していきます。
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