「膝が痛い、水が溜まった。」という話は、よく耳にされることと思います。整形外科を受診して、変形性膝関節症と診断されたり、軟骨が減っていると言われた方も多いかと思います。

関節は、骨とその表面を被う硝子軟骨(しょうしなんこつ)、これを包む関節包から成ります。膝関節では関節包から関節内に向かって半月板という線維軟骨(せんいなんこつ)でできた棚の様な構造があります。また、関節包の内面は滑膜細胞でできた滑膜で被われています(図1)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関節軟骨とは一般に、硝子軟骨をさしますが、今回は、硝子軟骨の主要な構造について、お話しいたします。軟骨を顕微鏡で大きく拡大して見ると、図2のように、ぶどうパンのように見えます。ぶどうが軟骨細胞で、そのまわりのパンの部分を軟骨基質と呼びます。軟骨は皮膚や胃の粘膜の様には細胞に富んでおらず、内部に神経や血管は有りません。神経系の機能は神経細胞が主役となってこれを司りますが、関節を衝撃から守り、滑らかに動かすという軟骨の機能を担っているのは細胞そのものではなく、軟骨細胞が作り出した軟骨基質です。

 

 

 

 

 

 

 

 

<軟骨基質の主な構成要素>

①Ⅱ型コラーゲン:組織の構造を作るタンパク質で柱や梁となって、関節軟骨のかたちを決めます。

②コンドロイチン:ガラクトサミンという糖とグルクロン酸という糖が結合し、これが沢山つながってできた多糖(多くの糖がつながったもの)です。

③ヒアルウロン酸:グルコサミンという糖とグルクロン酸が結合し、これが沢山つながった多糖です。

④コアプロテイン(芯蛋白とでも訳したらよいでしょうか):コンドロイチンがつく芯棒となります。

テレビや新聞広告で目にする、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルウロン酸、グルコサミン、等の名前が出てきました。みんな軟骨細胞内で作られ、細胞外へ分泌されます。

これらのキャストを使って軟骨を作ってみます。

コンドロイチンという細い棒が、芯棒のコアプロテインにくっついて、プロテオグリカンというブラシのようなものを作り、このブラシがヒアルウロン酸というヒモにたくさん結合してプロテオグリカン集合体というものを作ります(図3)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロテオグリカン集合体はⅡ型コラーゲンでできたジャングルジムにくっつき、ひっかかって、勝手に遊びに行けない様になっています。プロテオグリカンは陰性に荷電しており水を引き付けるため、ここに水が引き寄せられて、固くて少し弾力のある軟骨の完成です(図4)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、関節内には、もう一つ、関節液という大事なキャストがいます。軟骨の表面を覆う液体であり、滑膜内の血管からしみ出た、酸素や養分を含んだ血漿と、滑膜細胞が分泌したヒアルウロン酸でできています。血管のない軟骨では、関節液中の酸素、養分が軟骨基質に浸み込み、軟骨細胞にたどりつきます。また、関節液は潤滑液として関節の摩擦力を極めて小さくして軟骨を保護しています。

関節液が、どうやって出来てくるかを絵に描いたものを見たことがありません。しょうがないので、自分でこんなだろうと思っている所のものを描いてみました。(図5)

なお、正常な関節では、関節液が微量であるため、これを皮膚の上から触れることはできません。注射器で吸引しても殆どとれません。