通信 「腰ってどこのこと?」で腰痛は様々な疾患によって生ずる事をお伝えしました。これらの中で一番こわいのは大動脈瘤破裂や解離性大動脈瘤です。数時間の単位で生命の危険が大きくなっていきます。腰痛を訴えて整形外科を受診されることがありますが、血管外科や循環器内科が担当します。次にこわいのが、転移性脊椎腫瘍(癌の脊椎転移・・・癌は骨が大好きです)と化膿性脊椎炎(ばい菌が背骨にやってきて、骨を溶かします)です。これらは、数日、数週の単位で重篤な状態になっていきます。腰痛の診療は、これらの疾患のチェックから始まります。めったにないものですが、あれば重大ですので。

これらの重大な病気がある事をうかがわせる腰痛以外の徴候をレッドフラッグと呼びます。日本語に訳すと赤旗となりますが、現在はレッドフラッグとそのまま呼んでいます。その主なものは、

①安静時痛220px-Red_flag.svg

②癌になったことがある

③全身状態が悪い

④急な体重減少

⑤筋力低下の進行がはやい

⑥発熱3151.jpg-23153.jpg-2

等です。

これらの徴候があれば、腰痛に対する通常のレントゲン写真撮影の他に、血液検査や、場合によっては早めにMRI検査を行います。

ただし、転移性脊椎腫瘍であっても、筋力低下がなかったり、脊椎レントゲン写真に異常を認めないこともあり、30%の人には癌の既往がありません(脊椎転移によってはじめて癌が発見されます)。安静時痛がなく、動作時痛だけの方もいます。化膿性脊椎炎では、感染をうかがわせる発熱や血液検査での白血球増加も半数の人には生じません。レッドフラッグが無いからといって重篤な疾患が腰痛の背景にないことを保証するものではありません。レッドフラッグのない重大な腰痛疾患の確定診断は遅れがち(むずかしい)になります。

医師が勧める治療をきちんとやって、御本人には痛い所に負担をかけない様にして頂いて、それでも症状が改善しない、あるいは悪化する様なら、これが一番重要なレッドフラッグサインと思っています。症状が良くなっているかどうか教えてくださることが最も大事です。そして、早く良くなってくださいネ(私が安心できます)。

写真の方は、放置すれば、いずれ、癌によって脊髄が圧迫されて下半身が動かせなくなります(対麻痺と呼びます)。この時期であれば、抗癌剤や放射線療法で手術を回避できる可能性があります。